シリーズ第12回 プロ講師が実践する個別指導の指導方法 大学受験生編 「8章 メンタル」

8章 メンタル

大学受験生の指導で科目指導や進路指導以上に重要かつ難しいのがメンタルサポートです。

メンタルサポートなんてどうすればいいかわからん、という人が多いですが、そう難しく考えずに当たり前のことをやればいいんですよ。それが難しいわけですが。

8.1 自分で責任を追うところからスタートさせる

まず、多くの生徒は自分の行動に責任を持たなくて済むような環境で勉強をし続けていることを理解しましょう。

宿題がその要因の一つです。また、ただ板書を写したり問題を解くだけの授業も要因です。

これらの要因の共通項は「やらされている」ということです。

宿題にしろ授業にしろやらされているうちは、自分ができない原因を他人のせいにします。心のどこかで「自分でやりたいと思ってやってるわけじゃないから」という思いがあるんですよね。まずはこれを変えなきゃいけない。

そのために、宿題は出さない方がいいし、授業も解説させるほうがいいんですよ。

入試に関する情報や大学の情報など生徒自身が調べられることは調べさせましょう。やらせてみると驚くほどできないので面白いですよ。ろくに情報も調べられません。今まで一体何を学んできたのかと。

そういう情報の調べ方や整理の仕方も教えましょう。情報リテラシーは受験や大学生活だけでなくこれからの人生で必須のスキルです。

この状態で模試を受けたとします。その結果はもはや自分の責任以外の何ものでもないので、言い訳、責任転嫁はできません。自分で受け止めてなんとかするしかありません。そのことをしっかりと伝えるようにしましょう。そして、どうすればもっと良くなるかアドバイスしましょう。

勉強のやり方も最初から事細かに教えるのではなく、まずは生徒にやらせることが重要です。初回の指導時に、次回までの課題としてハードワークさせるのもこのためです。まずは生徒自身にやり方を判断させ「これは自分の仕事だ」と認識させましょう。最初は何をやるかくらいは指示してあげてもいいでしょう。そうじゃないと何もできない人が多すぎるのでそうするのですが、本来はそこから自分で考えさせたいところです。

8.2 メンタルを強化するには行動しかない

なぜメンタルが弱いのかと色々と考えたんですが、メンタルが弱い人は一つの共通点があることに気づきました。

それは「何かに熱中してやり遂げたことがない」んですよね。スポーツでも勉強でもいいんですが、何かを超頑張ったことがある人はメンタル的に強いです。めちゃくちゃ頑張った経験があるというのは人生の至る所で強みになります。ですのでできるだけ早い段階でこれを経験してもらいたいところです。

残念ながら、「何かに熱中してやり遂げたことがない」人は、そもそもそういう行動に移せないメンタルなんですよね。だからこそ、さらにメンタルが弱くなる。後でも出て来ますが、この負のスパイラルから抜け出すには「行動」しかないと思います。

で、受験生の中にはそういう経験がないために自己効力感を持てない人がたくさんいます。そういう人に受験勉強中に自己効力感を持ってもらう方法は一つしかありません。

そう、ハードワークです。

とにかく今までやったことがないくらいの勉強量を短期間にやらせると面白いことが起きます。その生徒の中で「私超すごくない?」「オレ天才」みたいな感覚が生まれます。これも先ほど同じことですが、メンタルが弱い人はそう思いにくいのでメンタルが弱いんですよね。それでもやらなければ何も変わりません。

よく、ただハードワークさせるのは非効率的だみたいな批判を耳にしますが、それは成功者バイアスに囚われた意見です。ハードワークしたことがない人、もしくは勉強で苦労したことがある人がそう言ってるのを聞いたことがありません。なぜなら、やったことがないのでわからないからです。

一見するともともと頭が良く勉強ができるように見える人も、実はかなりの努力をしています。それは小さい頃からの習慣の差であることも少なくありません。

例えば、小学生の頃から毎日1時間勉強し続けてきた大学受験生と全くしてこなかった大学受験生では明らかに学力に差があります。そしてその時点での学力だけを比較すると前者の方がまるで天才かのような印象を受けてしまいます。そこには数千時間という努力の差があるにも関わらずです。

そういう頭の良い人と自分を比較してメンタルをやられる人も多いです。「どうせ自分なんか受かるわけない」と思ってしまうわけです。

その通りです。その頭のいい人はおそらくそれだけの努力をしてきています。中には稀に天才の人もいますが、そう言う人はごく少数で10000人に1人くらいでしょう。

まずはその点を受け入れた上でじゃあどうするかを考えなければいけません。まるで自分だけが不当な扱いを受けているというような被害妄想にも似た感情や、大した努力もしていないにも関わらず、無力感を感じているようなバカな状態から抜け出さなければいけません。

これはかなりの困難を伴います。

「お前はバカだし、怠惰だし、どうしようもないけど、変わりたいならやるしかない!」

そういう生徒に対して、私はこの言葉しか出てきません。

「誰にでも可能性はあるよ」とか「努力すればなんとかなる」とかいった非情な言葉は絶対にかけられません。

高校生にもなれば自分がいかにバカか怠けているか、負け組かは彼らなりに理解しています。彼らの中には変わりたいと思っている人もいますが、そういう人が求めているのは慰めの言葉ではなく、現実に立ち向かう勇気をくれる言葉です。

ありもしない可能性にしがみついているあいだは前には進めません。

何年も前に堤真一主演で「俺はまだ本気出してないだけ」という映画がありましたが、そのタイトルみたいな状態にいる人がほとんどです。

本気になって挑戦しない、できない理由は「可能性がある」状態をキープしておきたいだけです。挑戦して失敗すると、自分がいかにダメかがわかってしまい、可能性が断たれると思ってるんでしょうね。

本当はその失敗こそが重要なことを知らないんです。なぜなら、これまで「失敗 is 悪」と教え込まれてきてますからね。

8.3 負のスパイラルから抜け出そう

今までできなかったことをできたときが生徒が成長したと言えるタイミングです。特に「受験勉強しなきゃいけないと思いつつなかなか手につかない人」を指導する場合は、特にこのタイミングを見逃してはいけません。

「今まではついついサボってしまっていた場面で勉強することができた」

「勉強がなかなか手につかない人」の成長の第一歩はこれです。これは賞賛に値することなので、しっかりリアクションしてあげましょう。これは承認欲求を満たすという効果よりも、生徒本人が自分の成長を実感することの効果が大きいです。

これを繰り返すことで徐々に前に進んでいける人もいますが、そうでない人の方が多いです。

メンタルが弱い人は総じて皮肉屋、冷笑気味、被害妄想、保守的、悲観的、です。なので、本来は成長したと言えることでも、それを自分で正確に評価できません。

「今まではついついサボってしまっていた場面で勉強することができた」としても、次のように考えてしまいがちです。

「でも、これくらいみんな当たり前にやってるし」
「これができたからってほとんど何も変わらない」
「合格するにはまだまだ全然足りない」

こう考える人に対してはどこかで必ず、

「お前はバカだし、怠惰だし、どうしようもないけど、合格したいならやるしかない!」

と、ガツンと言う必要があります。

メンタルが弱い人の多くは行動しないから経験値がなかなか貯まりません。経験値がないと自信が出ないので行動できません。この負のスパイラルから抜け出すには、自信がなかろうが、できなかろうが、行動するしかないんですよね。

彼らは1mの高さからプールに飛び込むのさえ怖がる人だと考えてください。実際、大したことないんですが、恐怖が先行して飛び込むことができません。

普通の人はバク転するのを怖がります。頭をぶつけるんじゃないかという恐怖が頭をよぎるからです。でも、練習を繰り返すとその恐怖は徐々に消えていきます。それは、実はそんなに頭ぶつけないし、ぶつけてもそんなに痛く無い(かどうかは人によりますが)という経験値を蓄えていくからです。

恐怖や不安に打ち勝って経験値を貯めにいかない限りいつまでたってもその恐怖や不安はなくなりません。

勉強も同じです。「一生懸命勉強した結果、不合格になったらどうしよう(自分の可能性が断たれたらどうしよう)」という不安、恐怖に打ち勝つには勉強して受験するしか無いんですよ。

これも呪いなんですが、ほとんどの人は大学受験は「人生決まってしまう感」が強い。だからどうしても不安と恐怖を感じてしまう。

冷静に考えればそんなことは全く無いんですが、これも経験値がない人は「理屈ではわかるけど、、、」となってしまう。

だからやっぱりすべては経験値なんです。

そして、メンタル弱い人はその経験値が圧倒的に少ない。そういう人にどんな言葉をかけようが経験値は増えたりしないんです。はぐれメタルやメタルキングはいないし、いたとしてもいきなりは倒せない。コツコツ、スライムを倒すしかない。

でも声をかけて上げることで、1m下のプールに飛び込んだり、スライムに素手で殴りかかる勇気は出るかもしれない。

だから声をかけ続けるんです。

それでも無理なら選択肢は二つです。

「”お前はバカだし、怠惰だし、どうしようもないけど、合格したいならやるしかない!”という言葉とともに、プールに突き飛ばす」

か、

「あきらめる」

です。

前者は、どうしてもその生徒に不安や恐怖に打ち勝って前に進んでもらいたい場合です。後者は、そうではなく「今回はこの生徒のタイミングではなかったんだな」と思った時です。

私は基本的に前者を選択します。その生徒のタイミングじゃ無い場合、そういう言葉をかけて、突き飛ばしたとしても、何も響かず、その生徒は離れていきます。私はそのときになって初めて、タイミングじゃなかったと判断するようにしています。

たまに、一度離れたけど戻ってくる人もいますが、そういう人は強いですね。もはや覚悟は決まっているので、どんなにきつくても最後までやり抜きます。

8.4 100言は1動にしかず

生徒は受験勉強を通して不安を口にします。夏過ぎたあたりから、「最近勉強どう?」と聞くと「一応やってるんですが、不安です(笑)」みたいな返答はよくあります。

そういうときは「まだまだイケるからもっとやれ!」と言うだけでOKです。

相談乗ったり色々するんですが結局、不安や恐怖には「行動」が最もよく効くんですよね。ごちゃごちゃと説教くさいことを言うよりも「うるさい、いいからやれ!」の一言の方が効果的です。

これが有効なのは私自身のキャラもあると思います。私がそういうと「とりあえずやっとこう」と思うんだと思います。理由はどうあれ、やることで、いつのまにかその不安は消えてるんですよね。

講師が自信を持って「これやれば合格する!」と言えるかどうかが重要です。説得力がある人の言葉は強いですからね。