シリーズ第11回 プロ講師が実践する個別指導の指導方法 大学受験生編 「7章 進路指導」

7章 進路指導

進路指導も講師の仕事の一つです。科目指導だけしたいという人もいると思いますが、それは講師の仕事を誤解しています。生徒が必要としているのは勉強を教えてくれる先生ではなく、コーチなんです。

正直、科目に関する勉強なんてテキストに書いてあるし、動画でも見て自分で勉強できます。それすらできない人はそもそも難しいんですよね。だからこそ自学レベルを上げることが重要だし、それを指導するのが重要なんです。

7.1 正確な情報を伝える

自分で進路指導してるときに「何を偉そうに言ってるんだ」と自分で思ったことないですか?

私はあります。

大した社会経験もないのに「ああした方がいい、こうした方がいい」とか言うのは馬鹿馬鹿しいと思うんですよね。

なので私はある時から偉そうに話すのをやめました。その代わりに正確な情報を伝えるようにしています。大学受験はどういうシステムなのか、どういう選択肢があるのか、受験に関する情報はどうやって集めるのか、など講師としての経験を伝えるようにしています。

また、それとは別に自分自身が人間としてもっといろんな経験をしないといけないなあとも思っています。正直、受験勉強しかできない人間て面白くないでしょ。私だったらそういう人に教えられても何も面白くないですもん。

講師の中には偉そうに説教する人がたくさんいますが、そういう人は大した経験値がないんですよね。それに気づいてないから偉そうになる。それに気づいてない時点でヤバイです(笑)。

大学生講師は、自分の受験生時代の話や大学生活の話を積極的にしてあげると良いと思います。それだけで、生徒は少し先の未来の自分を想像できるようになり楽しくなりますからね。

7.2 受験校ハラスメントに気をつけろ

進路指導と言えば受験校ですが、受験校を押し付ける講師、教師がいるんですよね。そもそも自分の進路は自分で決めればいいんですが、なぜかGMARCHとか早慶とかを推してくる。

推してくる理由は実績を作りたいからです。

塾とか高校の実績として〇〇大学合格何人みたいなアピールがよくされています。まともな生徒はこんなものになんの意味もないことを理解していますが、こういうアピールがなされるということは、まともじゃない生徒がたくさんいるということです。

また、このアピールは生徒だけではなくその保護者向けのメッセージでもあります。保護者は子供の心配をするので、できるだけ良い大学に入って欲しい(これ自体が思考停止)みたいな思いを持っていたりします。

高校生くらいだと、保護者にコントロールされてしまっている人も少なくないのでそういう意味では効果的です。

そういう生徒の中にも実はちゃんと自分の意思を持っていてやりたいことや行きたい大学を考えている人もたくさんいます。

指導するにあたって講師はそういう生徒をサルベージする意識を常にもっていなければいけません。

受験校や志望校を押し付けてくるのは生徒のことを実績作りの対象としてしか見てないってことです。そういう人の話は無視です。

受験校ハラスメントについてはもしかして受験校ハラスメントうけてない?でも書いたので興味ある方はどうぞ。

7.3 ほとんどの人はやりたいことなんてない

進路指導に限らず、キャリアプランの話になるとプロテニスプレイヤーの錦織選手やプロサッカー選手の本田圭佑選手の話をする人が多いんですが、多くの人にとってあれって結構うざいんですよね。

「それができればとっくにやってるわっ」とみんな思うわけです。

そして、個別指導を利用する生徒には彼らと同じレベルで努力してきた人はほぼいません。

なので、そういう話を持ち出すタイミングはよく考えましょう。そういう話が響くタイミングが来た時にしないと逆効果です。

今勉強してることが何の役に立つのかも同じことです。

そういう疑問を持ち出す人は本当にそれが何の役に立つのかを知りたいわけではありません。ただ、自分が勉強しなくて良い理由、武器として持ち出しているだけです。

講師自身も自分がやりたいことを見つけ、それに向かって努力したことがあるかよく考えて見てください。ほとんどの人はないでしょう。

そう言う話を偉そうに語れば語るほどバカがバレます。

多くの人は何かをやりながら「これやりたい!」ってことに出会うんですよ。そして全ての時間をかけてでもそれをやりたいと思うことに出会える人は残念ながらごくわずかです。

すでに書いたように科目の勉強は学校じゃなくても身につけられます。技術が発達している現代では、そう言う意味で学校に通う価値は低くなっています。

今は、「自分がやってて楽しいことだけで生きていくこと」が比較的容易になっています。そのために何をすべきかを教えた方がみんな幸せになると思います。

でも、教える側の人間はそのために何をすべきかを知らないので難しいんですよね。それを知っている人は教師になろうとは思わないので。

7.4 やりたいことを引き出すマジックワード

「学力MAXで、超金持ってるとしたら、何したい?」

これだけでOKです。

多くの受験生は「大学に行かなければいけない」という呪いにかかってます。そして、「自分はバカだから一番行きたいところは行けない」という呪いにもかかっています。

進路指導の時にマジックワードを使うと、大学進学じゃない進路を口にする人もいます。

おそらく本当にそれがやりたいと心の中では思っているんですが、「大学に行かなければいけない」という呪いにかかっているのでそれをなかなか言い出せないんですね。

志望校についても、事前に聞いていたものとは違うものが出てくることがあります。「本当はここに行きたい」と。でも自分の学力や現状の不甲斐なさからついつい低めの目標を口にしちゃうんですよね。

そもそもその低めの目標として挙げられた学校に失礼(笑)。

やりたいことをできなかった、挑戦すらしなかったという思いはさらに強い呪いとなって生涯つきまといます。また、本人だけでなく、将来のパートナーや子供へも降りかかります。

ということでまず呪いを解いてあげないといけないと思います。そのための第一歩は本音を聞き出すことです。ぜひこのマジックワードを使って本音を聞き出してみてください。

7.5 適当に大学行って、結果的にうまくいく人とそうでない人

まず、最初に言っておきますが、大学に行ってうまくいくかどうかを予め知る方法なんてありません。人によってうまくいくかもしれないしうまくいかないかもしれない。

変わるチャンスはいつでも誰にでもあります。特に日本はそのチャンスが比較的平等に与えられていると思います。それを他人があれこれ言うのは野暮ってもんです。

なので、私は「とりあえず大学」もありだと思ってます。たとえ、呪いにかかっているとしてもです。

大学に行って衝撃的な何かに出会うかもしれません。何かのタイミングで呪いが解けるかもしれません。

多くの人にとって大学受験がそのタイミングではないということだと思います。本来、タイミングは人それぞれなはずなんだけど、それを横並びで無理やり合わせようというのが間違ってるんですよ。

色々と経験することで自分がいかに小さい人間だったかを知っていくことでしか、本当の意味でそういう呪いは解けないと思います。

だからみんな遠慮せずに「ノリで大学選びました!」と言って良いんですよ。

7.6 科目指導以外のコミュニケーションの重要性

進路指導の項目にも関わらず、ここまでは具体的なキャリア設計の話をほとんどしてません。それは、多くの生徒が指導スタートした時点でその段階に達していないので、まずその段階まで導いてあげる必要があるからです。

そのためには科目指導以外のコミュニケーションが必要です。

その生徒がどんなことが好きで、何に興味があるか。勉強に対してどういう姿勢なのか、なんのために勉強しているのか、どうして大学へ行きたいのか、など様々な情報を知った上で

「こういう選択肢があるよ」と提示して、はじめて生徒は納得します。

大学名や偏差値、模試の判定など表面的なことだけで「ここが良いんじゃない?」と言ったところで心に響かないんですよね。

そういう人が平気で受験校ハラスメントするんですよ。

すでにやりたいことが決まっていて、志望校も明確になっていて、やる気十分、みたいな生徒はウルトラレアです。そして、そういう生徒でさえ、ちゃんとした扱いを求めています。というより、そういう人の方がよりコミュニケーションを重要視しているとさえ言えます。

7.7 選択肢を提示する

ここまで理解した上で生徒が取りうる選択肢を提示しましょう。選択肢はだいたいこんな感じだと思います。

  • 一般受験
  • 指定校推薦
  • 公募推薦
  • AO
  • 専門学校
  • 就職
  • フリーター
  • ニート
  • その他

大学受験の方法としては一般受験、指定校推薦、公募推薦、AOがあります。

どこかの大統領ではないですが、全ての選択肢はテーブルの上にあってどれを選ぶかは自分次第です。ところが、ほとんどの人は大学受験しか頭にありません。これだけ多様化した社会でそれはおかしいですよね。

どれを選んでもいいですが、とにかく自分が「これだ!」と思うものを選んで欲しいと思うし、「これだ!」と思うものを選べるように、それまでに色々経験して欲しいと思います。

そして、そういう指導をすることこそが最も重要です。

「これだ!」というものが決まっていれば指導するのは非常に容易いですからね。

盲目的に「〇〇大学に行きたい!」でも別に構わないんですよ。何度も書きますが、自分にとって何が重要かに気づくのはタイミングは人それぞれ異なるので。

でも、大学受験はそういうタイミングの一つになることには留意しておきたいですね。そして、そういう話は生徒にぜひして欲しいと思います。それが相手に響くかどうかはわかりませんが、そういう機会を与えることは重要です。中にはそれがタイミングとなって、良い方向に向かう人もいますからね。

ともかく、生徒に進路指導をするときはまず生徒の話をよく聞くことが重要です。講師の自分勝手な人生設計を押し付けるのは論外。

講師は生徒自身が納得して進めるようにサポートすることが重要です。

7.8 内部進学、指定校推薦、公募推薦、AOについて

個々の制度に関しては調べればすぐにわかるのでここでは書きませんが、これらの入試制度に対する私の考えを書いておきます。

まず、基本的に、そういう制度がある以上、どのルートで大学に入ろうが個人の自由です。どのルートの方が価値があるとかないとかを議論する意味はあまりないでしょう。

どのルートを選ぼうが本気でやることが大切です。本気でやれるだけの大学を受験した方がいいです。その方が楽しいですからね。

本気で何かをやったことがある人とそうでない人で明らかに何かが違います。後者は常に冷笑的で、イベントを常に外側から観察しているだけです。前者の人は常にイベントの当事者であろうとします。

当事者と外野とでは得られる経験値が天と地ほどの差があります。受験勉強もどこまで「自分ごと」にできるかが成功するかどうかのポイントです。そうなるような選択をすべきですし、それができるような指導をしなければいけません。

今後の教育を良い方向に持っていくのであれば一般受験をある程度残しつつ公募推薦やAOの枠を増やすのがいいと思います。

一般受験を残した方が良いのは「ほとんどの人はやりたいことなんてない」からです。公募推薦やAOはざっくり言えば実績や、やる気のある人を入学させる制度です。これまでの経験やどうしてもその大学に入りたいという思いがある人が選ばれます(少なくとも上位の方は)。

多くの人はそういったものを持ってないですが、大学に入ってからそれらを見つけるであろう人です。そういう人にこそチャンスを与えるのが大学の一つの役割だと思うので、入試の点数一発で決まる一般受験の枠は最も多く用意しておかなければいけないと思います。

同様に内部進学や指定校推薦の枠もある程度は残しておいた方が良いと思います。ただし、これらの枠をあまり増やしすぎると学力が低い生徒が増えすぎて全体の質の低下を招きます。

非常に感覚的ですが、全体としては内部進学:指定校推薦:公募推薦:AO:一般受験=:1:1:1:1:10くらいがいいんじゃないでしょうか。

最近は少子化ということもあり、内部進学の枠が増えていると聞きます。それだけではなく提携校と称して内部進学と同じようにエスカレーターで入学させるところも増えてきているようですが、教育的にはやめた方がいいと思います。まあ教育としてやっているというよりもビジネスとしてしか考えてないと思いますが。

7.9 良い環境を手に入れるには努力が必要

私は大学に行きたいと言う生徒には「大学はちゃんと選べ」と釘をさします。上位校であればそんなに気にならないですが、中堅以下はかなりまずい状況になってるからです。

いわゆるFランになると授業なんてほとんど成立してないので、とてもじゃないけど勉強をする環境にないです。もちろん全てがそうだと言うわけではないですし、それが生徒に合うか合わないかは別の話ですしね(それが合うという生徒もどうかと思いますが)。

傾向として学力が低いほどそういう状態になります。これは高校でも同じことですね。

そういうところが良いという人はあまりいないと思いますが、なんにせよ自分に合った環境を探す努力はしたほうがいいでしょう。

「どうせ自分はバカだから〇〇大学は無理」と思わないことも重要です。「〇〇大学に行くためには、現状から考えて〜〜をしよう!」と思って行動することが重要です。安西先生も「諦めたらそこで試合終了ですよ。」とおっしゃっています。

7.10 オープンキャンパスや学祭よりも平日に行け

大学の雰囲気を知るためのものと言えばオープンキャンパスと学祭です。どちらもある程度は大学の雰囲気を味わえますが、これでは十分ではありません。

オープンキャンパスは高校生をお招きして接待するためのイベントなので大学側は自分たちの都合のいい情報しか出しません。オープンキャンパスに参加している大学生以外はいないので実際の大学生活の雰囲気とはかなりズレがあるでしょう。

学祭はまだましな方です。学生が主体となって日頃のストレスを発散するお祭りなので、大学生のノリを肌で感じることができます。オープンキャンパスとは違った意味で日常の大学生活とはズレているのでこれでも十分ではありません。

最もいいのは平日に大学へ行くことです。

平日のふつうに講義が行われているキャンパスに行くのがその大学の雰囲気を味わうのに最も適しています。高校をさぼってでも一度は行くべきですね。