シリーズ第9回 プロ講師が実践する個別指導の指導方法 大学受験生編 「6 章 指導力を上げる上級テクニック その1」

6章 指導力を上げる上級テクニック

多くの講師は4章〜6章に書かれたテクニックを順不同で身につけます。4章は生徒自身の「自学スキル」に焦点を当てたもので、一度身につけば生徒が一人で実行できるものです。

一方で5〜6章は講師が行うものです。5章は講師の性格によっては身につけるのが難しいですが、6章は性格に関係なく身につけることができるテクニックです。テクニックというよりも思想に近いものもありますが、どれも重要なものです。

6.1 ディズニーランドを超えろ

いきなりですが、講師はディズニーランドを超えることを常に意識して指導して欲しいと思います。

ディズニーランドはリピーターが多いことで有名ですが、すごい人になると毎日のように行く人もいるそうですね。

講師も、生徒に「早く次の指導を受けたい!」と思わせなければいけません。そのくらい面白い指導ができれば、効果もそれだけ高くなります。飽きさせないのはもちろんですが、間違っても「もう指導受けたくない」と思わせてはいけません。

毎回の指導を終えたら自分自身にこう問いかけてみてください。

「今日はディズニーランドを超えたか?」

私はこれが指導する上で最も重要なことだと思います。つまり、「楽しいかどうか」です。人間、楽しいものは勝手にやります。しかもものすごい集中力で。小学生がものすごい勢いでポケモンの名前を覚えていく様子をみていれば、誰にでもわかることでしょう。

講師は、「楽しいかどうか」を常に考えて指導するようにしましょう。

6.2 失敗 is 正義

「前回内容のチェックをしたら全く解けない」みたいなことはよくあることです。そして、そのとき講師は「なんでできないんだ」「勉強してないだろ」とイライラしてしまうが、これは基本的にNGです。

すでに書いたように講師のイライラは生徒を萎縮させるだけで、いいことは何一つないのでできるだけイライラしないようにしましょう。

まず大前提として「失敗 is 正義」「チャレンジ is 素晴らしい」ということを講師自身が体に染み込ませなければいけません。

考えているだけでは何も起きません。行動することが全ての始まりです。失敗は行動した結果、チャレンジした結果なので、それは賞賛に値します。

自分自身が何かにチャレンジし、数々の失敗を乗り越えてきた講師であれば素直に生徒の失敗を「拍手しながら素晴らしい、よくやった!」と讃えることができるはずです。

多くの生徒はチャレンジすることを恐れます。それは「質問できない」ことにも関係あります。チャレンジするということは失敗することもあります。というより、失敗する可能性の方が高いです。そして多くの生徒は失敗は悪いことと教え込まれています。

「これくらいなんでできないんだ」
「こんなこともできないのか(笑)」
「ほらまたミスした」
「そのくらい自分で考えろよ」

こういう言葉を、信頼関係がない相手から日常的に言われたら、チャレンジする気は起きなくなって当たり前です。質問すらする気にならないでしょう。

信頼関係があればこれらの言葉は逆の効果を持つようになります。こう言われた人は「何くそっ」と思ってより勉強するようになります。そこまでの信頼関係が作れたら勝ちですね。

6.3 やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば、人は動かじ

これは山本五十六の言葉らしいです。そっくりそのまま指導に応用できます。

講師の指導力は学力の低い人へどう教えるかである程度決まります。学力が低い人へどう教えるかがわかると学力の高い人へどう教えるかが自然とわかってきます。

学力が低い人へどう教えるか、手順を示します。例えば初習で因数分解で解く二次方程式を教えるとしましょう。

①まずは1問実際に解いてみせます。
②もう1問、似た問題を解いてみせます。
③類題を生徒と一緒に解きましょう。
④今度は類題を生徒の力だけで解かせます。
⑤もう1問生徒に解かせましょう。

①について

このときに、丁寧に手順を教えます。あくまでも解くためにはどうしたらいいかだけを教えるようにしましょう。学力の低い人は、「なぜそうなるのか」という理屈を教えると逆に混乱します。

②について

類題を使って①と全く同じことをしましょう。これによって、生徒は解法の共通点を自然と考えます。このとき、生徒が「たぶんこうかな?」「こうっぽいな」と考えているということを理解しておきましょう。

③について

②の段階では生徒はまだ自分の考えた解法に自信がありません。そこで、さらにもう1問一緒に解くことで自信が出てきます。このとき、ヒントを出しながら誘導してあげると良いと思います。

④について

解法に自信が出てきたら、今度は生徒の力だけで解かせてみましょう。これで解くことができれば、その問題の解き方はその時点ではOKということが言えます。これで自学できるレベルまで引き上げることができました(ここ重要)。このとき、もし解けなければもう一度、①〜③を繰り返しましょう。

⑤について

学力の低い生徒はコツを掴むのに時間がかかります。生徒が自信を持って手を動かせるようになるまで、何回でも解かせましょう。

このように指導するのは「3章 指導の基本」のところで書いた、3つのルールの3番目、「自己解決できるようにして終える」ということを指導のベースとしているからです。

学力が低い人は、自己解決能力も低いです。そして、諦めるのも早いので少しでもできないとすぐに投げてしまいます。そうなると、自学の量が減ってしまい、その結果として学力は上がっていきません。

ですので、毎回の指導を「自己解決できるレベルにして終える」のです。

自己解決できるレベルかどうかの判断には経験値が必要ですが、ここに書いてあることを実行すればその経験値はすぐに貯まります。

生徒の学力に応じてこのステップのどこを省くか、各ステップをどのくらい厳密にやるかを調整しましょう。すべてはこれで決まります。

この山本五十六の言葉には続きがあります。

「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。」

「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」

この続きの言葉も指導にそのまま応用できますね。指導者、リーダーとして重要なことが凝縮した素晴らしい言葉だと思います。詳細は省きますが、みなさんだったらどう解釈するか考えてみてください。

6.4 生徒の手元を見る

これは講師であれば自然とやっている人もいると思います。解いている手元を見れば「どのくらい理解しているか」「何がわかってないか」「どういう思考をしているか」など生徒の学力に関する様々な情報を得られます。

スラスラと淀みなく手が動いているならしっかりと理解できている可能性が極めて高いですし、手が止まれば、その付近の知識、理解が不足していることが推測できます。

手を動かす順序(解く手順)を見れば、どういう思考でその問題を解こうとしているのかがわかります。

これらは、講師の経験の多寡によって精度が決まりますが、講師自身も経験を積まないとレベルは上がらないので、指導中は積極的に手元を見るようにしましょう。

私はオンライン指導をしていますが、オンライン指導では基本的に相手の手元が見えません(見ようと思えば見れますが、時間がかかる)。長年の経験と、質問することによって手元が見えなくても、どこでつまづいているか、何がわからないのかがわかるようになりました。