シリーズ第10回 プロ講師が実践する個別指導の指導方法 大学受験生編 ver.2017 「6章 指導力を上げる上級テクニック その2」

6.5 どこがわからないのかを探るための質問をする

生徒の多くは自分がどこがわからないのかがわかりません。だからこそレベルが上がらないのです。

講師は指導している問題のポイントになる部分を積極的に質問して、生徒がどこでつまづいているのかを探るようにしましょう。

そのためには講師自身がそのポイントに精通している必要があります。「4.4.2 解法ステップの例」のところで書いてあるように、それぞれの問題についてどういうステップがあるかを整理しておきましょう。

また、生徒がよくつまづくポイントについても整理しておくと良いでしょう。これは講師自身の勉強経験が役に立ちます。それに加えて、指導経験を積むことでつまづきポイントを増やしていきましょう。

 

6.6 解説の板書はすぐ消す

個別指導をしているとホワイトボードを使って教えている場合があると思います。そして、ホワイトボードに解説を書いて生徒に説明するのがスタンダードでしょう。

「解説→板書を写す→演習」が基本的な流れになると思いますが、この演習に行く前の板書を写すというのが良くない。実によくない。

多くの生徒はこのとき思考停止状態にあります。

何も考えずにただ写しているだけになってしまいます。これは時間の無駄というだけでなく、その問題への理解を大きく妨げてしまいます。

なぜなら、「板書(解法)を写した=もう大丈夫」と脊髄反射的に思ってしまうからです。その虚構の安心感を得たいがために板書を写していると言っても過言ではありません。そう教え込まれてきているからです。

 

これを避けるために、解説したあとでその板書はすぐに消すようにしましょう。消す前に、「これに関して、なにか聞きたいことある?」と一言添えるのを忘れないように。

こうすると、生徒は演習するときに一生懸命考えるようになります。逆にこれをしないと何も考えずにただ、そのやり方の通りに解いて理解した気になってしまいます。

ただし、常にこれをやるかどうかはよく考えなければいけません。あまりにも難しい問題の場合は、解説を受けてすぐに全てを理解するのは厳しいでしょう。

「生徒が無駄に板書を写す癖がある場合にこのやり方をすることで改善できる」と考えてくれれば良いと思います。

 

6.7 宿題は出さない

受験生に対しても宿題を出す人がいますが、それは生徒の自学スキルを下げているだけなので基本的にはやめたほうがいいと思います。これまでのシリーズに書いてある内容を実行できていれば、宿題を出す必要はないということがわかるはずです。

宿題を出すメリットとしては「ペースが管理できる」「出さないとやらないから」などが挙げられるが、どれも生徒のポテンシャルを引き出す効果は薄いです。

 

ただ何も言わずに宿題を出さないのはNGなので注意が必要です。「何をやるか自分で考えてやってみよう」と一言添えるようにしましょう。

最初はやってくることのレベルは低いと思いますが、それを毎回、改善していけば自学スキルが高まり、生徒のポテンシャルを引き出すことができます。

毎回、どんなことをやったか聞くのは時間がかかりすぎます。そのために質問させるのです。質問させれば、何をどのレベルまでやったか、何を考えているのか、がわかります。さらに、自学がちゃんとできているかは、説明させればすぐにわかります。「質問させる+説明させる」ことで、「現在の学力」「自学スキルのレベル」「改善点」などが全てわかってしまうので便利ですね。

 

宿題を出さないメリットはもう一つあります。宿題の範囲やどこをやるかを生徒自身で決めさせることで、その勉強は「自分のこと」になります。宿題を出してしまうと、それは「やらされているもの」という感覚がどうしても生まれてしまいます。これが勉強効果を著しく下げている要因であることを理解しないといけない。

どんな学力であれ大学受験生であれば「自分で進んでいく力」を身につければ自分のポテンシャルを引き出せるようになるし、講師はそこに力をいれなければいけません。

 

6.8 飽きさせない工夫をする(たまにチャレンジャブルな問題を解かせる

大学受験の勉強は数ヶ月にもなる長期戦なので、毎日同じことの繰り返しになりがちです。そして同じことを繰り返すと飽きてきます。飽きてくると学習効果は低下します。

たまに、今扱っている問題レベルよりも上の問題を解かせてみましょう。問題選定は以下のポイントを抑えて行いましょう。

①直近で扱った単元であること
②ギリギリ解けそう、解けなさそうな問題であること
③「過去問」

こういう問題を解かせることで「ああ、これ最近やった!」「でもちょっと違うぞ?」「入試ではこういう問題が出るのか!」と刺激を与えることができます。

 

これ以外にも飽きさせない工夫はどんどんやりましょう。「自学する」→「解説を受ける」の繰り返しは誰でも飽きます。ディズニーランドを超えるのです。

以降の項目でも飽きさせないようにするためのテクニックを書いてあるので参考に。

 

6.9 教えすぎない

講師をやっている人は教えるのが好きなのでついつい教えたがります。でも、あまり話が長くなると生徒は退屈します。人の話をただ聞いているだけだと眠くなるのは当たり前ですからね。

また、教えすぎるというのは「生徒の楽しみを奪うこと」でもあります。

勉強の楽しさの1つは自分で考えて答えにたどり着くことにあります。「ああじゃないかこうじゃないか」と試行錯誤して答えにたどり着いた時の快感を得たいがために問題を解いていると言っても過言ではありません。

教えすぎるというのはそのチャンスを奪っていることになります。

 

とは言え、まったく教えないとそもそも解けない人も多いので、その辺はバランスが重要です。

受験生への指導の基本は質問対応ですので、そもそもある程度自分で考えたあとで指導を受けることになります。これも快感を味わってもらう方法として機能します。

解説するときも1から10まで全て解説するのではなく、ヒントを出したり誘導したりして「生徒の考え」を引き出すように指導することがポイントです。

 

6.10 スピード感を出す

これはけっこう見落としがちなことですが、授業ペースをうまくコントロールすると生徒のモチベーションを向上、維持できます。

運転免許を取りたての頃は安全運転でスピードもあまり出さなくても緊張感を味わえ、それだけで楽しいものですが、慣れてくるとだんだんスピードを出したくなります。それと同じで勉強にも興奮を味わうスピード感が必要です。

「生徒が退屈しない」≦ 適切な授業ペース ≦「ギリギリついてこれる」

を常に意識してペースをコントロールしましょう。具体的には次のことに気をつけて指導するといいです。

①教えすぎない
②生徒に任せる
③無茶振りする

 

①について

教えすぎないことでどんどん先に進めるのでスピード感がでます。生徒が自己解決できそうなところの説明は省略して、解かせることで1ターンの疾走感が出ます。

指導時間内での1ターンはこんなイメージ

1ターン=解説+類題演習+質問対応

 

②について

教えすぎないとほぼ同じですが、解説に限らず生徒が自己解決できそうな部分は積極的に生徒に任せましょう。大学受験の場合、全ての項目を1から10まで解説している時間はありませんし、ここまで読んだ方はすでにおわかりの通り、それをやると自学レベルが上がらないのでお勧めしません。

 

③について

例えば、「じゃあ次の1週間で単語帳1冊を最初から全部やってみようか」と無茶振りしてみましょう。結果的にできてもできなくてもどっちでもいいんですが、「え、そんなこと無理じゃね?」と生徒が思うようなことをやらせることがポイントです。

 

これによって、ドラクエ3で初めてバラモスと戦ったとき、もしくはドラクエ6でムドー(3回目)と初めて戦ったとき、のあの感じを味わうことができます。ドラクエ知らない人は適当に想像してください。

運良くクリアできた時の達成感はその後の勉強のモチベーションに大きくプラスになりますし、クリアできなかったとしても「もうちょいでクリアできるかも」とか「全然無理だったけど、やりがいがあった」と感じてくれれば儲けもんです。

 

この項目で書いたことは指導スキルが高くないと難しいです。どこを省略するか、何を任せるか、どんな無茶振りをするか、などあまりズレたことをやってしまうと逆効果になりかねないので注意が必要です。

ですが、レベルを上げたいと考えている講師はぜひチャレンジしてください。講師も失敗を繰り返さないと成長しませんからね。

 

6.11 雑談を楽しむ

勉強の話ばかりだと面白くないので、色んな話、例えば自分の好きな話をしましょう。ただし、今勉強していることに関連することがいいです。この数学者は女好きだったとか、この定理は何千年も前から存在してる、とかこの言葉の語源は、とか。

雑談ができるというのは実はかなり高度なコミュニケーション能力だと思います。本当にただの雑な話だと、「その話どうでもいいわっ」と思われて逆効果になるかもしれませんが、ユーモアを交えつつ今勉強していることに関係のある話をすることが重要です。

その効果はただ単に生徒と仲良くなるというだけではありません。

 

まず、そういう話をすることで印象に残り関連した知識が記憶に定着しやすくなります。「そういえば先生がこんな話してたなあ」と思い出しやすくなります。

また、そういう話を指導の間に挟むことで緩急をつけることができます。「解説」→「演習」の繰り返しだけだとどうしても飽きます。間でアイスブレイクを挟むことで、リフレッシュできます。

これらは意外と重要な効果です。

ですが、空気の読めない雑談はただただ面白くないだけなので注意が必要です。だからこそ上級テクニックに分類したんですよね。意識せずにこれができるようになるには相当のセンスか訓練が必要です。

面白い話をするためには本や記事を読んだり、旅行したり、何かを作ったり、挑戦したり、インプットすることが重要です。それらの知識や経験なくして面白い話はできません。講師自身が面白い人間にならなければいけません。

特に、経験を話すというのはコミュニケーションでは非常に効果的です。聞きかじった情報を得意げに話されても何も面白くないですからね。

 

6.12 生徒を講師にする

これは3章4項に似ています。普段、生徒は「教えてもらう」立場ですが、それを逆にしてみましょう。

あらかじめ、「次回はこの問題を講師として解説してもらうから」と伝えておくとよいでしょう。

実際の解説のときに色々と質問をしてみましょう。質問箇所はその問題のポイントになる部分や、一般的につまづきやすいポイントなどです。質問されることで、そのポイントを強く意識するようになるし、今まで自分がいかに何も考えずに勉強していたかを痛感するはずです。

これは生徒にとっていい刺激になりますし、講師にとっても刺激になります。講師も飽きるので、自分自身が楽しく指導できる環境作りを意識的にしていきましょう。

最初は慣れないのでうまくいかないと思いますが、何回かやっていくうちに慣れてきます。環境が許せば、他の生徒を巻き込んで、一人を講師役にして授業させてみると面白いですよ。

 

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